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フランス現代社会に横たわる闇を描く『レ・ミゼラブル』

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ユゴーの名作『レ・ミゼラブル』の舞台となった街で、200年後のフランス現代社会に横たわる闇を、新進気鋭の監督がえぐり出した問題作。

『レ・ミゼラブル』あらすじ

パリ郊外に位置するモンフェルメイユ。

ヴィクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台でもあるこの街は、いまや移民や低所得者が多く住む危険な犯罪地域と化していた。

犯罪防止班に新しく加わることになった警官のステファンは、仲間と共にパトロールをするうちに、複数のグループ同士が緊張関係にあることを察知する。

そんなある日、イッサという名の少年が引き起こした些細な出来事が大きな騒動へと発展。事件解決へと奮闘するステファンたちだが、事態は取り返しのつかない方向へと進み始めることに…(公式ホームページより引用)

強烈!!痛烈!!

『レ・ミゼラブル』といえば、ヴィクトル・ユゴーの「あの名作」じゃないの?と思う人も多いはず。しかし、本作はタイトルは同一ながら、舞台も「あのレミゼ」と同じ場所に設定しながら、ユゴーの「レミゼ」とは違う切り口でフランス社会が抱え続けてきた”闇”を描き出します。

監督はWebドキュメンタリーを手がけてきたラ・ジリ。巨匠スパイク・リーにもその才能認められた、注目の新進気鋭監督です。

まさに今作は、ドキュメンタリー出身のラ ・ジリ監督のドキュメンタリーの手法を用いた映像表現が見どころ。

とある三人組の警察官の一日が”ある出来事”をきっかけに思わぬ事態に発展していく様を、手持ちカメラやドローンで、俯瞰したショットで映し出していきます。

そこに映し出される俳優たちのごく自然な演技。ドキュメンタリータッチだからこそ、フランス社会が抱えている差別や貧困、暴力をフィクションとは思えない精度で描き出していきます。”暴力や差別の恐ろしさ”が観客に真に迫ってくるのです。

「今、私たちが目にしているのは、紛れもない”現実”なんだ」と。

一見「社会派」で難しいテーマの映画のように思えますが、脚本も秀逸です。前半部はゆっくりとしたスピードで進むのですが、登場人物のちょっとした台詞や、警察官の態度、街のちょっとした風景などから「不穏さ」を醸し出すよう演出しており、フランスが抱える問題を静かに提起します。前半部に溜まった鬱屈が後半に起こる”とある事件”から怒る暴走へのガソリンとなり、物語は思わぬ方向へ転がっていきます。

そして、衝撃のラストシーンへ…。

本作の『レ・ミゼラブル』にはジャン・バルジャンもジャベール警部も登場はしませんが、ユゴーが描いた社会の闇、その本質は200年後でも変わらないんだと突きつけられます。そして、いつも割りを食うのは、その社会に生きる”子供たち”である、と。

世界で暴動やデモが起こり、”権力を持つ側”と”権力を持たない側”、”富める者”と”貧する者”で分断されている現代。私たち日本人も他の国の話では済まない局面を迎えています。

だからこそ、私たちは現代の”レ・ミゼラブル”。つまり現代が抱える世の「無情」を描いた本作は見逃せない一本なのです。

『レ・ミゼラブル』

監督/ラジ・リ
出演/ダミアン・ボナール、アレクシス・マネンティ、ジェブリル・ゾンガ
© SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS

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